雨の翼 [ネタバレ映画レビュー (日本)]
知り合いからずーっと薦められていて、ようやく鑑賞。
薦めてくれたのは、同年代の男性だ。
私も夫もそしてこの男性も、熊澤尚人監督の「虹の女神~Rainbow Song~」に感動し、映画とDVDを何度も見直したのが二年前ぐらいのこと。
この景色、たぶん知っている。
見始めてすぐにそう感じた。
この海浜地区に私は長く住んでいた。
京葉線から見える稲毛海岸から千葉みなとにかけての風景や、スクーターで走り回った海岸線。
夕方の海のきらめきや、空の広さ。
夕日を浴びる団地やマンションの建物。
「あれ、たぶん千葉みなとのポートタワーじゃないかな」
屋上シーンですぐに目についた、屋上左手に見える高い建物。
「そしてあれが稲毛海浜公園にある温室」
屋上シーンで中央に見える、ガラス張りの円形の建物だ。
「この位置から考えるに、この屋上、たぶん市立稲毛高校じゃないかな」
エンドロールのクレジットに、しっかり市立稲毛高校の文字を発見しました。
高校校内の様子も、私が通っていた高校と似通っていて、高校時代のことを懐かしく思い出そうとしていたところ……
「こんな雲が出ている日に、雨なんて絶対に降らない」
DVDを見始めてまもなく、横で一緒に見ていた夫がぼそっとそう言った。
「そうかもしれないけれど、映画なんだから」
と、私。
「いや、小作品だからこそ、きちんと作らなければ。
この映画だと雨がやってくる空気感を肌で感じることができない。
雨が重要なんだから、雨がやってくるときの匂いとか、感覚を感じさせるようでなければ駄目でしょ。
ちょっとでも雨のことや雲のことを研究して作っていれば、こんな風にはならないし、空気感が出るはず。
まあ、スケジュールの都合もあるんだろうけれど……。
そもそも、冬にあんなところでロケをすることが間違い。
あそこは冬は滅多に雨なんて降らない。
さしずめ、行間が広すぎて読むことかできない、そんな映画」
つまり、こういうことだ。
雨が絶対に降るはずのない雲を映し、直後に雨が降ってくるシーンがあったというのだ。
最初の方、屋上で陽介(石田卓也)が透花(藤井美菜)目撃する辺りのシーンだったと思うのだけれど、夫はここで、興醒めしてしまったらしい。
「雨」がテーマになっている映画なのだからこそ、そういう一見どうでもいいと思われがちなところでも、きちんとリサーチして作らないと、ましてやちょっとのリサーチですむことをせずに作ってしまったというところが、本物感を失わせてしまった、残念な映画ということらしい。
もちろんスケジュールの都合もあるのだろうけれど、雲だけのシーンなわけだから、その後、雨がやってくる前の雲を入れることもできたはずだと言われれば、そうかもしれないとも思う。
屋上のシーンは夕景がきれいで、見ていて10代のころを思い出させて、ちょっと感傷的な気分に浸れるけれど、その雲や雨の映し方で、もっと完成度が上がって、本物感が出たはずだというのだ。
この映画の35分という時間をどう考えるかだけれど、昔見ていたアニメも特撮も、正味25分ぐらいしかなかったわけで、それなのに異常に満足度が高かった。
正直「雨の翼」は結構あっけない感じがした。
もちろん、登場人物も少なく、予算だってかなり低く作られているだろう。
しかし、もしかすると、細かい部分の本物感をどこかではしょってしまった結果が、よりあっけない作品へとつながってしまったのかもしれない。
でも、千葉の海浜地区の夕景はとても見事。
夕焼けを見ながら、ベランダで歌を歌っていた自分の少女時代を懐かしく思い出させてくれた。
そういう意味で、私にとっては、それなりに意味のある映画だったと思う。
35分という長さなので、軽く見られるし、後味も良い。
また、登場人物は全員好演していると思う。
先生にほのかな恋心を抱き始めたり、陽介にだんだんと心を開いていく透花の様子などは、素直に綴られている。
それにしても、私にこの映画を薦めてくれたカレは、一体どこに強く感動したのだろう?
2009,10,23追記
その後、映画を薦めてくれたカレに聞いてみました。
好きなのは「空気感」だそうです。
確かに、淡々としたセリフの中に、静かに育っていく愛情や信頼がかいまみえるし、それを屋上からの風景や雨とで、場面を上手につなげながら表現していたな……と、納得いたしました。
<データ>
監督 : 熊澤尚人
脚本 : まなべゆきこ
原案 : 竹尾麻希
主な出演:
池上透花(藤井美菜)……高校2年生。ちょっといじめられているらしい。
松前陽介(石田卓也)……透花にほのかな恋心を抱き始める同級生。
紀野幸也(眞島秀和)……亡くなってしまった教師。
山下修(郭智博)……陽介の友人。
2008年2月9日公開/日本/35分
2009-10-20 01:10
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